2011年7月21日木曜日

現代自動車、強さ「本物」 日本勢の脅威に


東日本大震災の影響で供給に支障を来たす日本勢を尻目に、韓国・現代自動車が世界で販売台数を伸ばしている。1999年に200万台に満たなかった販売台数は、今年は3倍超の600万台突破は確実だ。中国やインドといった新興国でシェア上位にあるうえに、欧米でも勢いが止まらない。トヨタ、ホンダをはじめ日本勢は、シェアを現代に奪われ、厳しい競争に追い込まれている。

 インド南部ケララ州。大きなヤシの木が両脇に密集する舗装道路は、2台の車がやっとすれ違うほどの広さだ。ここを行き交う車は、インドでトップシェアのスズキ製が圧倒的に多い。だが、地元の男性は「最近は『H』マークの現代が急激に増えている。(インドメーカーの)タタと同じくらいかも」と話す。

 現代はもともと新興国に強みを持つ。世界最大の市場となった中国の今年1~6月の販売台数は前年同期比10%増で、シェアは4位。インドでも同期の販売が約18万8000台で、7.3%増だった。シェアもスズキに次いで2位の地位を固めた。

 先進国市場でも販売が急伸している。傘下の起亜自動車と合わせた2011年の米国の販売目標を、当初設定した101万台から5万台増の106万台に上方修正した。10年の89万4500台に対し、18%の大幅アップとなる。米オートデータによると、現代の1~6月の米国販売台数は約56万8000台で、5位のホンダの60万7400台に肉薄した。
 欧州でも“猛威”をふるう。欧州自動車工業会によると、10年の現代の販売台数は約62万900台(起亜含む)と、トヨタグループの約60万300台を上回り、初めてトヨタを抜いてアジアメーカーとしてトップにたった。来年1月に欧州自動車工業会への加盟も決まり、確実に地歩を築きつつある。

 この結果、1~6月の現代(起亜含む)の世界販売は308万5000台に達し、過去最高を記録した。しかも、かつての低価格を武器にした販売手法はとっていない。李元煕副社長が「全世界で均一の品質を目指す」と明言するように、「品質重視」に舵を切っている。

 米国でかつては粗悪車の代名詞だった現代だが、今では低燃費性能が評価され、結果的にはこの品質向上が、販売増やシェア拡大をもたらす好循環を生んでいる。

 現代の好調のあおりを食っているのが、日本勢だ。新興国市場はもともと現代が強く、稼ぎ頭の米国市場でトヨタとホンダが大きなダメージを被っている。

 「現代は、ホンダを狙い撃ちにしている」--。

 ホンダの幹部が今年前半、米国の販売店を訪問したとき、販売店の幹部からこう打ち明けられた。現代が年初に発売した中型セダン「エラントラ」は、“シビックキラー”の異名を持つ。今年5月のシビックのフルモデルチェンジ前に先行発売し、「デザインも(シビックを)相当意識している」(自動車評論家)。

 加えて、フルモデルチェンジしたシビックは震災の影響で出荷がスムーズにいかず、スタートダッシュに失敗。トヨタの「カローラ」もモデル末期というタイミングの悪さも重なり、現代の「エラントラ」が、日本勢が最も得意とした中型セダン市場を、一気に切り崩した。
日本の自動車業界の一部からは、日本勢の失速を「震災の影響によるもので、一時的」と見る向きもある。しかし、マツダの前田育男デザイン本部長は「(現代は)世界中から優れたデザイナーを集めて(デザインが)一気に良くなった。脅威を感じる」と指摘。富士重工業の吉永泰之社長(57)も「現代の好調は本物だ」と警戒感を隠さない。

 そのためにも「1日でも早く米国出荷を正常化しなくてはならない」(ホンダの池史彦専務執行役員)と復旧のピッチを上げてはいるものの、トヨタ首脳は「日本車から現代に乗り換えたユーザーが、再び日本車の戻ってくるかは疑問」と真顔で話す。

 欧米にキャッチアップして発展を遂げてきた日本企業。今後は、トヨタを脅かす存在になった現代の戦略を徹底的に分析し、“攻める力”に生かすことが求められるかもしれない。

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